人事リソース不足の原因と解決策|業務棚卸し・標準化・外注の進め方を徹底解説

「採用・労務・教育・人事制度の運用まで、すべてが少人数の人事に集中している」「採用したいのに、その採用担当者を採用する時間すらない」――こうした人事リソース不足は、いま日本企業の経営課題の中核に位置しています。

本記事では、人事リソース不足の現状を最新の政府統計・民間調査データで整理し、原因と解決策を実務目線で解説します。すべての出典は政府統計または民間の経営課題・採用実態調査の一次情報をもとにしています。

人事リソース不足とは|採用・労務・育成・制度の全領域に及ぶ課題

人事リソース不足とは、人事部門が担うべき業務量に対して、それを処理する人員・スキル・時間が足りていない状態を指します。一般に人事の業務は以下のように広範です。

領域主な業務リソース不足の典型症状
採用母集団形成、書類選考、面接、内定者フォロー面接の日程が組めず辞退が増える
労務勤怠管理、給与計算、社保手続、就業規則法改正への対応が後手に回る
教育・研修新人研修、OJT設計、管理職研修制度はあっても実施できない
人事制度等級・評価・報酬制度の設計と運用評価面談の運用が形骸化する
組織開発エンゲージメント、サーベイ、配置サーベイ結果を打ち手に転換できない

人事リソース不足は、単に「人手が足りない」という意味ではなく、戦略・実行・制度運用の三層で時間配分が崩れている状態と捉えるのが本質的です。

最新データで見る|人事リソース不足の現状

① 人材強化は、ほぼすべての企業が「最重要課題」と位置付けている

帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」(経営層・マネジャー層5,241件回答)によると、「人材強化(採用・定着・育成)」を経営課題として重視する企業は全体で90.2%に上り、大企業98.2%、中堅企業96.6%、中小企業94.0%、小規模企業77.6%と、規模を問わず最上位の経営課題になっています[1]

また、人事関連の経営課題のうち「業務の標準化」は58.3%、「賃上げ・人事評価制度への対応」は57.6%(中小企業では62.6%)が選択しており、採用・労務・制度の3領域に課題が同時並行で押し寄せている状況がわかります[1]。さらに、これらの課題に「1年以内に着手すべき」とした回答は80.5%に達しており、対応の緊急度が高いことが示されています[1]

② 人手不足は構造的かつ業界横断的

帝国データバンクの別調査(2024年10月)では、正社員が「不足」と回答した企業は51.7%に達し、人手不足は構造的な課題となっています[2]。厚生労働省「労働経済動向調査(令和6年11月)」でも、正社員等労働者過不足判断D.I.は+46ポイントの不足超過となり、医療・福祉、建設業、運輸業・郵便業で人手不足感が特に高い状況です[3]

③ 採用フローの業務量が増えている

マイナビが運営する転職情報サイトのデータでは、2025年7月時点の正社員求人件数は2023年平均比169.0%、応募数は同128.8%と高水準で推移しています[5]。応募数の増加は、書類選考・面接調整・面接実施という人事の業務量を直接的に押し上げる要因となります。

リクルートワークス研究所の中途採用実態調査では、2024年度上半期の中途採用確保D.I.は-17.5ポイント(確保できた40.3% − できなかった57.8%)と、人材確保の難易度の高さが続いています[4]採用業務の負荷は増え、それでも採用は埋まらない──この二重苦が人事リソース不足の体感を強めています。

人事リソース不足の3つの構造的原因

原因①:人事業務の「広域化・専門化」が同時に進行

労働関連法改正(働き方改革、育休関連、ハラスメント、年金・社保)への対応、エンゲージメントサーベイ、リスキリング、ジョブ型人事への移行など、人事に求められる領域は10年前と比べて大幅に拡大しました。一方で、それぞれの領域は専門性が深まり、片手間での対応が難しくなっています。

原因②:採用市場の難易度上昇で「採用業務」が肥大化

求人と応募が増える一方で採用充足は悪化している現在、ダイレクトリクルーティング・スカウト・SNS・リファラル採用と複数チャネルを並行運用する企業が増えています[4][5]。チャネルごとに運用ルールが異なるため、人事担当者一人あたりの運用工数は数倍に膨らみやすいのが現状です。

原因③:人事の業務が「属人化」しがちで標準化が遅れる

採用要件の判断、評価運用、労務トラブル対応など、人事業務は判断業務と定型業務が混在するのが特徴です。多くの企業で、判断業務に時間が取られ、定型業務を標準化・自動化する時間が確保できないという悪循環が発生しています。帝国データバンク調査でも「業務の標準化」が経営課題として58.3%選択されており、構造的な課題として認識されつつあるテーマです[1]

人事リソース不足を解決する4ステップ

人事リソース不足の解決は、「人を増やす」だけで進めると採用コストと教育負荷が膨らみ、根本解決にはなりません。(1)棚卸し → (2)標準化 → (3)自動化 → (4)外注の4ステップで進めるのが王道です。

ステップ①:業務棚卸し|「誰が・何を・どれくらい」を可視化

まずは人事業務をすべて書き出します。粒度の目安は1業務15〜60分単位で、月単位の発生頻度と所要時間を記録します。可視化することで、「採用業務が全体の60%を占めている」「給与計算は月3日かかっている」など、リソースのボトルネックがはっきり見えます。

業務月間頻度1回あたり所要時間月合計判断/定型
応募者対応(書類確認・連絡)40回15分10時間定型
面接日程調整30回20分10時間定型
一次面接の実施20回60分20時間判断
給与計算・社保手続1回20時間20時間定型
採用要件すり合わせ・JD作成2回3時間6時間判断

ステップ②:標準化|判断業務と定型業務を切り分ける

棚卸しで業務を可視化したら、「判断業務」と「定型業務」に分類します。判断業務は人事担当が時間をかけて行うべき領域(採用要件設計・評価判断・組織設計)、定型業務は標準化・自動化・外注の候補(日程調整・応募者一次対応・給与計算)です。

定型業務はマニュアル化・テンプレ化・チェックリスト化を進めます。これにより、属人化が解消され、外注や新入社員への移管がしやすくなります。

ステップ③:自動化|ATS・労務SaaS・採用管理ツールの活用

標準化が進んだ業務は、ツールで自動化できる範囲が広がります。代表的なツールカテゴリは以下の通りです。

  • ATS(採用管理システム):応募者情報の一元管理、選考ステータス自動更新、面接調整リマインダー
  • 労務SaaS:入退社手続き、社保・税の電子申請、年末調整の電子化
  • 給与計算SaaS:勤怠データ連携、自動計算、明細電子配布
  • e-ラーニング:新人研修やコンプライアンス研修の標準化
  • サーベイツール:エンゲージメントの定期計測と可視化

ツール導入は初期コストと運用設計が必要ですが、定型業務の所要時間を半分以下に圧縮できるケースが多く、削減した時間を判断業務に充てられます。

ステップ④:外注|採用代行・労務代行・面接代行で時間を買う

ツール化しても残る業務、あるいはツール化のリードタイムが取れない業務は、外注で時間を買うのが現実的です。

外注領域主なサービス外注に向く業務
採用代行(RPO)応募管理・スカウト送信・日程調整・内定者フォロー応募数が多い/チャネルが分散している
面接代行一次面接の実施・評価レポート面接数が多く、評価項目が標準化できている
スカウト代行ダイレクトリクルーティングの送信〜返信対応媒体運用工数が膨らんでいる
労務代行・社労士給与計算・社保手続・労務相談法改正対応・労務トラブル対応
研修委託新人研修・管理職研修の設計と実施研修の体系化が必要

外注の優先順位|どの業務から切り出すべきか

外注は「全部を一気に」進めるとコストが膨らみ、社内のノウハウが空洞化します。優先順位は以下の3軸で決めます。

  1. 定型度が高い業務から始める:日程調整・応募者対応・給与計算など、属人性が低い領域は外注効果が大きい
  2. 業務量のピークが読みやすい業務を切り出す:採用繁忙期・年末調整など、社内負荷が一気に高まる業務はスポット外注に向く
  3. 判断業務は社内に残す:採用要件設計・評価運用・組織設計など、企業文化や戦略に直結する判断業務は外注しない

人事リソース不足を解決するうえでの注意点

  • 「人を増やす」だけでは解決しない:採用そのものが難しい現状では、業務設計の改善とセットで進める必要がある
  • 外注先への丸投げは長期で逆効果:外注先と社内で業務範囲・成果定義・フィードバックループを契約と運用の両面で設計する
  • ツール導入は運用設計が肝:導入してもオペレーションが旧来のままだと効果が出ない
  • 判断業務の時間を確保する:人事の戦略性は判断業務に宿るため、外注・自動化で生み出した時間を「採用要件設計」「評価運用」「組織開発」に振り向ける

よくある質問(FAQ)

Q. 人事担当者が一人しかいません。何から始めるべきですか?

A. まずは業務棚卸しから始めてください。月単位で「何にどれだけ時間を使っているか」を書き出し、定型業務のうち最も時間がかかっている1つを標準化または外注に回します。多くの場合、応募者対応・面接日程調整・給与計算のいずれかが候補になります。

Q. 採用代行と社員採用、どちらが先ですか?

A. 「人事の採用そのものが難しい」「3か月以内に成果を出したい」という場合は、採用代行を先行させて手元の業務量を下げ、そのうえで社員採用の要件設計に時間を割く流れが現実的です。逆に長期的な組織開発を含めて任せられる人材を確保したい場合は、社員採用を急ぎます。

Q. ツール導入と外注、どちらが先ですか?

A. 標準化の進捗で判断します。業務がマニュアル化されておらず属人化している場合は、まず外注先と一緒に標準化を進める方が早いケースが多いです。標準化が進んでいる場合は、ツール導入で恒久的な効率化が見込めます。

Q. 中小企業でも人事制度の整備は必要ですか?

A. 帝国データバンクの2026年調査でも、中小企業の62.6%が「賃上げ・人事評価制度への対応」を経営課題として選択しています[1]。制度がないと、評価不公平感が離職要因になり、結果的に採用コストを押し上げます。完璧な制度設計より、まずは「等級・評価・報酬」を3段階程度のシンプルな骨格で運用開始するのが現実的です。

まとめ|人事リソース不足は「業務設計の問題」として解決する

人事リソース不足は、もはや一企業の問題ではなく、経営課題として認識される構造的テーマです。帝国データバンクの2026年調査では人材強化を経営課題とする企業が90.2%に達し、「1年以内に着手すべき」が80.5%という緊急度の高さが示されています[1]

解決のフレームはシンプルです。(1)業務棚卸し、(2)判断と定型の切り分け、(3)定型業務のツール化、(4)残った定型業務の外注。この4ステップを3か月単位で回すことで、人事担当が判断業務に集中できる体制が整います。人を増やす前に、まずは業務設計を変えることから始めましょう。

参考資料

[1] 帝国データバンク「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20260304-management-issues/

[2] 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)」
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241113-jinzaifusoku/

[3] 厚生労働省「労働経済動向調査(令和6年11月)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/r0611/index.html

[4] リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2024年度上半期実績、2025年度見通し)」
https://www.works-i.com/research/works-report/item/midcareer2025.pdf

[5] 株式会社マイナビ「2025年7月度 正社員求人掲載数・応募数推移レポート」
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250827_111069/

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