介護業界の採用は、いま日本で最も難しい職種のひとつです。厚生労働省の推計では、2040年度に必要な介護職員は272万人で、2022年度比+57万人の確保が必要とされています[1]。一方、介護労働安定センターの令和6年度調査では、事業所の従業員不足感は65.2%、訪問介護員に至っては83.4%に達し[2]、現場では「募集をかけても応募が来ない」「採用しても職種別の必要数が埋まらない」という声が常態化しています。
本記事では、介護の採用が難しい構造的な原因を、厚生労働省・介護労働安定センターの最新公開データで整理し、採用と定着の両面で進められる打ち手を解説します。引用はすべて政府統計または介護労働安定センターの公式調査結果など一次情報のみを使用しています。
介護の採用が難しい|最新データで見る現状
① 2040年に介護職員は57万人不足
厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によれば、2022年度の介護職員数約215万人に対し、2026年度には約240万人(+25万人)、2040年度には約272万人(+57万人)の確保が必要と推計されています[1]。年間ベースでは3.2万人/年(2026〜2040年)の増員が前提となっていますが、生産年齢人口の減少と他産業との奪い合いの中で、計画通りの確保は容易ではありません。
② 訪問介護員の不足感は83.4%
介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査」では、事業所の従業員不足感(「大いに不足」「不足」「やや不足」の合計)は全体で65.2%。職種別では訪問介護員83.4%、介護職員69.1%と、訪問介護を中心に深刻な不足が続いています[2]。在宅介護ニーズの拡大に対し、人員確保が追いつかない構造です。
③ 採用率は3年ぶりに低下
同調査では、訪問介護員・介護職員を合わせた採用率は14.3%(令和6年度)で、令和5年度の16.9%から2.6ポイント低下し、3年ぶりにマイナスへ転じました[2]。一方で離職率は12.4%と2年連続で低下しているにもかかわらず、採用が追いつかず「離職率は改善しているのに不足感は悪化」という矛盾した状況が生じています[2]。
④ 医療・福祉の有効求人倍率は依然高水準
厚生労働省「一般職業紹介状況」令和7年11月分でも、有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍/正社員0.98倍と求職者優位が続きます[5]。医療・福祉分野は職業別に公表される求人倍率でも引き続き高水準であり、介護関連職は業種全体の中でも応募が集まりにくいセグメントです。
介護の採用が難しい5つの構造的な原因
原因①:他産業との人材獲得競争
正社員不足は全業種共通の課題で、介護以外にも建設・運輸・宿泊・小売など多くの業種が同じ求職者層を奪い合っています。生産年齢人口が減少するなか、介護職を選んでもらう積極的な理由を提示できないと、他産業に流れる構造があります。
原因②:処遇と労働環境のイメージ
「給与が低い」「体力的に大変」「夜勤がきつい」といったイメージは、介護労働安定センターの離職理由・採用課題のアンケートでも繰り返し挙がる項目です[3]。厚生労働省も処遇改善・離職防止・定着促進・介護職の魅力向上を介護人材確保対策の柱と位置づけており[4]、業界全体での認識共有が進んでいます。
原因③:人間関係のミスマッチが離職を生む
介護労働安定センターの調査では、「前職を辞めた理由」として「職場の人間関係に問題があったため」が34.3%と最も多い項目になっています[3]。同時に「採用がうまくいっている理由」として「職場の人間関係がよいこと」が62.7%、「残業が少ない、有給休暇をとりやすい、シフトがきつくないこと」が57.3%と上位で、人間関係と労働環境の質が採用力と直結している実態が示されています[3]。
原因④:採用担当の専任不在と属人運用
多くの介護事業所では、管理者・サービス提供責任者・施設長などが採用業務を兼務しています。シフト管理や利用者対応に追われる中で応募者対応・媒体運用・選考調整に十分な時間が割けない状況が常態化しており、応募が来ても初回連絡まで時間がかかって他社に流れる、というケースは少なくありません。
原因⑤:求人票の処遇開示・2024年改正対応
給与・夜勤回数・シフトパターン・処遇改善加算の還元・キャリアパスといった介護職特有の応募判断材料が、求人票で具体的に書かれていないと、競合と並んだ時点で外されます。さらに、2024年4月の労働条件明示ルール改正で「業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期労働契約の更新基準」の明示が必須となっており[6]、未対応の求人はコンプライアンスと応募率の両面でマイナスです。
介護の採用が難しい状況を改善する7つの打ち手
打ち手①:処遇改善加算の還元を「数字で見える化」
処遇改善加算(介護職員等処遇改善加算)を取得していても、求職者にどう還元されているかが伝わっていないと採用力に変換できません。「処遇改善加算により月◯◯円の加算手当」「年◯回の特別手当として支給」といった形で、求人票に金額・頻度・対象職種を具体的に書きます。厚生労働省も介護職員の処遇改善を人材確保の柱に挙げており[4]、加算の活用と透明性が応募の意思決定に直結します。
打ち手②:労働環境を「人間関係+シフト」で訴求
介護労働安定センター調査で採用成功理由の上位が「職場の人間関係」62.7%、「残業少・有給取得しやすさ・シフト負担」57.3%です[3]。社員インタビュー、チーム構成、夜勤回数、有給取得率、シフト希望反映率などを数字と顔写真で開示することで、競合との差別化が可能になります。
打ち手③:母集団の多様化(経験者・主婦・シニア・外国人材)
厚生労働省の介護人材確保対策では、多様な人材の確保・育成と外国人材の受入環境整備が明示されています[4]。介護経験者・第二新卒・主婦パート・シニア層・特定技能や技能実習などの外国人材を含めて募集対象を広げると、相対的に競合数が減り、採用効率が改善します。
打ち手④:応募者対応スピードを24時間以内に
応募から初回返信までのリードタイムが2〜3日かかると、応募者は他社に流れます。シフト勤務の現場でも、応募受付の初回返信テンプレートと運用担当の指名を整え、24時間以内の一次連絡をルール化するだけで辞退率は改善します。日程調整は自動化ツール(Spir、TimeRex、Calendlyなど)でさらに効率化できます。
打ち手⑤:リファラル・アルムナイ採用の仕組み化
社員紹介(リファラル)や元職員の再雇用(アルムナイ)は、媒体経由より採用単価が低く、定着率も高い傾向があります。介護現場のように人間関係が定着に直結する職場では、紹介者と推薦者の信頼関係が初期定着の追い風になります。紹介インセンティブの設計、紹介可能ポジションの周知、退職者へのフォロー連絡の仕組み化が出発点です。
打ち手⑥:媒体ポートフォリオの定期見直し
介護専門媒体(ジョブメドレー、カイゴジョブ、きらケア、e介護転職、マイナビ介護職など)、Indeed、ハローワーク、地域密着の求人媒体、SNSなど、ターゲット別・採用人数別・コスト感別に媒体を組み合わせます。四半期ごとに掲載数・応募数・採用単価をレビューし、効率が落ちた媒体は縮小、新規媒体を試験運用に追加するサイクルが基本です。
打ち手⑦:採用代行(RPO)で工数の重い工程を外部化
管理者やサービス提供責任者が採用業務を兼務している事業所では、応募者対応・媒体運用・面接日程調整などの工数の重い工程を採用代行に切り出すのが現実的です。料金体系は従量課金型・月額固定型・成果報酬型と幅広く、月額10万円台のライトプランから始められるサービスもあります(当社調べの目安)。社内は要件設計・最終面接・定着フォローに集中する形を取れます。
採用と定着を一体で設計する
厚生労働省の介護人材確保対策では、(1)処遇改善、(2)多様な人材の確保・育成、(3)離職防止・定着促進・生産性向上、(4)介護職の魅力向上、(5)外国人材の受入環境整備を5本柱として整理しています[4]。採用は「入口」だけでなく、入社後の定着まで含めて設計しないと、採用→離職→再採用のループから抜けられません。
| 段階 | 主な打ち手 |
|---|---|
| ① 入口(採用) | 求人票の処遇開示、媒体多様化、スカウト、応募対応スピード |
| ② 入社直後(オンボーディング) | OJT担当の指名、初週・1か月・3か月の面談、業務マニュアル整備 |
| ③ 定着(1〜3年) | シフト希望反映、キャリアパス可視化、資格取得支援、ハラスメント窓口 |
| ④ 中長期 | 処遇改善加算の還元見える化、管理者育成、外部研修、副業・週休3日制など |
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 介護の採用がここまで難しい理由は何ですか?
主因は、(1)2040年に57万人不足という構造的需給ギャップ[1]、(2)他産業との人材獲得競争、(3)処遇と労働環境のイメージ、(4)人間関係に起因する離職、(5)採用担当の専任不在と求人票の開示不足の5点です。介護労働安定センターの調査では事業所の不足感65.2%、訪問介護員83.4%に達しています[2]。
Q2. 離職率は下がっているのに、なぜ採用が苦しいのですか?
介護労働安定センター令和6年度調査では、離職率12.4%は2年連続低下と改善しているものの、採用率が14.3%と前年比2.6ポイント低下し、3年ぶりにマイナスに転じています[2]。退職側の流出は抑えられても、入口の応募・採用が追いつかないため、結果として人手不足感が悪化する構造です。
Q3. 求人票で最初に見直すべきポイントは?
「給与レンジ」「夜勤回数と夜勤手当」「処遇改善加算の還元方法」「シフトの実態(希望反映率・夜勤回数の中央値)」「年間休日・有給取得率」「2024年改正の労働条件明示項目」[6]の6点をまず数字で具体化してください。介護労働安定センター調査で採用成功理由として挙げられる「人間関係」「残業少・有給取得しやすさ」[3]と直接結びつく項目です。
Q4. 介護未経験者やシニア層も狙うべきですか?
厚生労働省の介護人材確保対策では「多様な人材の確保・育成」と「外国人材の受入環境整備」が明示されています[4]。介護経験者一本足の採用では母集団が縮小する一方なので、未経験者・主婦パート・シニア・特定技能などの外国人材を含めた母集団設計と、それに応じた研修・キャリアパスの整備が不可欠です。
Q5. 介護事業所でも採用代行は使えますか?
使えます。介護専門媒体の運用、スカウト送信、応募者対応、面接日程調整など定型工程を採用代行に切り出し、管理者・サービス提供責任者は要件設計と最終面接、定着フォローに集中する形が現実的です。月額10万円台のライトプランから始められるサービスもあります(当社調べの目安)。まずは詰まっている工程に絞って2〜3か月の短期契約で検証するのが安全です。
まとめ|介護の採用は「採用+定着」の一体設計が必須
2040年に57万人不足[1]、事業所の不足感65.2%/訪問介護員83.4%/介護職員69.1%[2]、採用率は14.3%と前年比2.6ポイント低下[2]。介護の採用は市場構造に起因する課題で、媒体追加だけでは突破できません。
有効な打ち手は、(1)処遇改善加算の還元見える化、(2)人間関係+シフトの訴求、(3)母集団の多様化(未経験・主婦・シニア・外国人材)、(4)応募者対応スピード改善、(5)リファラル・アルムナイ仕組み化、(6)媒体ポートフォリオの定期見直し、(7)採用代行の活用です。同時にオンボーディングと定着の仕組み化を進めることで、採用→離職→再採用の悪循環から抜け出すことができます。
参考資料
[1] 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41379.html
[2] 公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度 介護労働実態調査結果(プレスリリース)」
https://www.kaigo-center.or.jp/content/files/report/R6_jittai_chousa_press.pdf
[3] 公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」総合ページ(過年度調査含む)
https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/
[4] 厚生労働省「介護人材確保に向けた取組について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02977.html
[5] 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」令和7年11月分
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67666.html
[6] 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
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